『星賀 光のぶらっと食べある記』平成5年”秋”


『星賀光のぶらっと食べある記』 平成5年9月号
手打ち蕎麦 あきばや さん
 旧国道13号線を天童駅から南に進み陸橋を越え少し行くと、湯気の立ちのぼる 大きな丼が目に付く。以前本紙「サンデー情報」で紹介されたこともあるので、知 っている人も多いだろうが、そこが「あきばや」さんである。
 店構えは土蔵風でいかにも手打ち蕎麦の店という雰囲気の店。湯気の立つ大きな 丼を横目でながめながら中に入ると品書きは数が多く、蕎麦好きだけでなく地域に 根ざした店であることが分かる。
 その中から今回は「板蕎麦」を注文する。この「板蕎麦」だが、山形の蕎麦屋さ んではポピュラーなメニューだが、カマボコでもないのになぜ板の上に蕎麦なのか、 以前から疑問に思っている。しかもほとんどは「板蕎麦」は板の上ではなく、私に は箱に入っているように見える(箱蕎麦?)。しかし、事実「板蕎麦」はかなりの コストパフォーマンスを実現しており、大食いの蕎麦好きには大変ありがたい存在 である。
 「板蕎麦」についてつらつら思っていたら、「板蕎麦」が出てきた。注文してか ら出てくるまでの時間は10分、早い。昼の時間を有効に使いたいと思っている人 には何よりの事である。その蕎麦は量的には盛りの約2倍弱、品の良い「板(箱)」 に入っている。よく「板蕎麦」は食べきれない様でもったいないと言う人もいるが、 「あきばや」さんは丁度良く「板蕎麦」の初心者にはぴったりのサイズと言える。 そして、蕎麦はやや太めで程良く黒ずんだ田舎蕎麦、但し噛みきれない程固くなく 誰でも楽しめる手打ち蕎麦であろう。また、蕎麦湯をさっと出してくれるのもうれ しい。
 さりげなく、しかも本格的に手打ち蕎麦を出してくれるこの土地は、やはり蕎麦 好きには応えられない場所である。

 さあ、また違う味に会いたいと思いながら、何処にぶらっと寄ってみるか。

『星賀 光のぶらっと食べある記』 平成5年10月号
三日町 伊藤そば屋さん
 ほとんど無きに等しい夏が終わり、実りの秋がやって来た。
 今年は天候のせいで多くの作物にかなりの影響が出ているが、でもやっぱり実り の秋。新蕎麦の季節がやって来る。
 そこで、今回よったのは天童駅から南にすぐの所にある伊藤蕎麦屋さんである。 駅前の再開発と共に、店構えも新しく清潔さを感じられる店先で、中に入ると奥に は蔵座敷があり歴史のある伊藤蕎麦屋さんの風格が感じられる。
 さて、店内には「新蕎麦」の張り紙。やはりこれからが蕎麦の季節。夏に冷たい 蕎麦も良いが、本来湿気の多い日本の夏は前年取れた蕎麦の品質管理には大変な季 節。蕎麦の持つ何とも言えない香がもっとも味?わえる蕎麦の旬は実はこれから。
 さて、早速品書きを見ると蕎麦だけでなく、うどんや和風らーめんや、天丼との セット等とメニューは実にバラエティに富んでいる。多分昔から天童の中心で純日 本風のファミリーレストランとして存在していたのだろう。
 その中から「合盛り」を注文する。出てきた蕎麦は綺麗な仕切りのある器に盛ら れ、蕎麦のやや黒ずんだ色とうどんの白のコントラストが食をそそる。蕎麦自体は 一寸都会的な感じがした。新蕎麦の香と手打ちの歯触りが何とも言いがたい味であ る。また、薬味として納豆も付いてきたので、これは冷たい「ひっぱりうどん」と して食べてみた。つるつるしこしことした感触が蕎麦とは違い、一度で二度おいし い思いが出来た。

 さあ、食欲の秋。どんどん食べるぞと言う気持ちと、出てくる腹との葛藤がこれ から始まる。次はどこにぶらっと行ってみようか。


『天童再発見紀行』に戻る