『星賀 光のぶらっと食べある記』平成5年”冬”


『星賀 光のぶらっと食べある記』 平成5年11月号
「ラーメンリッキー」さん
 秋の風も時々冬を思い出させる風に変わるこの頃。今年は本当に変な年だった等 と、一人物思いにふけるのはあまり似合わないので、腹が減ったら早速食べに行こ う。と思い今回ぶらっと寄ってみたのは、駅前通りから王将通りを南にちょっと入 った所にある「ラーメンリッキー」さんである。
 入口には番頭さんの犬がいるので、犬の恐い人はちょっと気をつける必要がある。 店内に入るとカウンターとテーブルが二つ。これぞラーメン屋という感じの雰囲気。 カウンターの中の店主であろう中華鍋を持っている女の方が、何とも言えない家庭 的な雰囲気を醸し出している。
 その姿の後ろに積まれたおいしそうなチャーシューの山。迷わず「チャーシュー メン」を注文する。やはり、寒くなってきて温ったかいものが欲しくなるこの季節 は、収穫される物が豊富になってくるし、おいしくなってくる。ファッションだけ でなく食べる物もバラエティになる季節だ。あぁ日本人に生まれて良かった、、、 等と考えていると「チャーシューメン」が出てきた。
 ぶ厚いチャーシューが豪華に六枚、スープの表面には油が浮くボリュームたっぷ りのラーメンという感じ。まずは、掟破りのチャーシュー先食べ(伊丹十三監督の タンポポ参照)に挑戦。うまい、本当に焼いた豚の味がしてしかも肉がとってもジ ューシー。脇に添えてある半熟の卵もお袋の暖かさという感じ。油は浮いているも のの以外にスープの味はあっさりとして決してクドくない。全体的にまとまった温 かい気持ちにさせてくれる「ラーメン」だった。
 今年の冬は寒くなりそうだれど、寒いからおいしい物もこれから一杯あるので、 これからが又楽しみだ。さあ、次はどこにぶらっと行ってみようか。

『星賀 光のぶらっと食べある記』 平成5年12月号
ドライブインアメヤさん
 車を運転していると色々な看板を見かけるが、看板に「手打ち」の文字と見ると すぐ「そば」と思う貴方、今回は「そば」ではない「手打ち」を食べにに寄ってみ た。
 国道48号線を仙台に向かって車を走らせ、創立100周年の看板のある山口小 学校を左に見て、一寸走ると右手に目標の「ドライブインアメヤ」さんがある。
 看板の下には赤く光る電光文字。中に入ると「いらっしゃいませ」の電迎。中に 入ると、窓には紅葉の山が折り重なるのどかな風景が広がる。座敷とテーブルの配 置は子連れにも便利である。
 テーブルの上に「当店のラーメンは自家製です」の文字。これはと思い、脇目も 振らずに「ラーメン」を注文する。
 改めて品書きを見てみると、蕎麦も自家製、丼物や定食に並んで、ラーメンと煮 込みとライスのセットやラーメンと目玉焼きとライスのセット等、ドライブインな らではのメニューも揃っている。腹が減るとこんなメニューがありがたいもので、、、
 そんな事を考えているとラーメンがやって来た。早速麺を食べてみると、ツルツ ルとした表面に歯応えはプリプリという感じ。これが手打ち(自家製)の麺なんだ。 と妙に感心してしまった。また、スープはあっさりとして、一気に食べさせる様な 飽きのこない味。ここにこんなラーメンがあったのかと驚かされた。
 また、帰りに電送されて外に出ると、冷たい風が身にしみる頃になっている。ま だまだ知らない「おいしいもの」がある事んだなぁと思いつつ、これからもどんど ん食べ歩くぞと思うのだった。
 さあ、真冬に向かって次はどんな所にぶらっと寄ってみようか。

『星賀 光のぶらっと食べある記』 平成6年1月号
山形の冬、究極の味覚「ひっぱりうどん」
 雪の舞う、木枯らしの吹く季節は心も体も冷えきってしまいそうな気がする。こ れに不景気という名の風まで吹く日には、財布までも冷えてしまう。
 こんな時は心から温かくしてくれる「ひっぱりうどん」が一番。最近は居酒屋の 店先にも「ひっぱりうどん」の文字を目にするようになったが、それぞれの家庭に 様々な味がある、今回は歩かずに食べてみた。
 この「ひっぱりうどん」は、この地の者にとってはあたり前の食べ物であるが、 全国的には珍しいと聞く。他の地の人は、乾麺を冬にはあまり食べないそうなので ある。
 そこで、私流においしい「ひっぱりうどん」の食べ方を一つ。まず、鍋にたっぷ りのお湯を沸かし乾麺を入れる。やや硬めに煮えた所で火を止め、鍋のまま食卓の 中央に置く、そこで麺を湯の中からひっぱりだしてアツアツの所をタレに付けて食 べる。
 タレの基本は納豆に醤油。トッピングする物として、ネギ・鰹節・生卵等、あと はオプションでサバ缶・唐がらし・大根オロシそれにおみ漬(天童温泉紅の庄向い の「居酒屋たすき」さんで入っていた)等がある。また、変わったところで納豆と バターに砂糖という洋風(?)の食べ方や、納豆の飽きた人にそばのつゆや中華スー プなどもある。
 家毎に色々な食べ方があり、寒い日には応えられない味の「ひっぱりうどん」。 こんなに素晴らしい創造的な味を生み出した地にいることが誇らしく思える。また、 この楽しみを知っているという優越感すら沸いてくるのは私だけだろうか。
 また、天童市内に製麺業の方が13軒も居る事は新たな驚きだった。(別表参照 ・山形市内は11軒)やっぱり「ひっぱりうどん」はこの地の名物なんだ。  さあ、次は寒くても外へ出て、どこへぶらっと寄ってみようか。

(別表)

 大山製麺 山口  奥羽製麺 柏木  奥山製麺 成生  後藤製麺 久野本

 佐藤製麺 寺津  昭和製麺 老野森 鈴木製麺 清池  天童製麺 山口

 中島製麺 本町  萩原製麺 東長岡 山形製麺 高擶  山本製麺 老野森

 渡辺麺工  蔵増    五十音順

『星賀 光のぶらっと食べある記』 平成6年2月号
中国料理 美香蘭
 山形の冬の味覚といえば、漬物は決して外すことのできない必須アイテムである。 その漬物の中でもセイ菜漬けは代表格であり、更にそのまま食べるだけで無く煮物 (なに)は家庭毎に違った味が残されている、この地の歴史の味ともいえる。
 そんなおもむきを持っている新しい味が発見できた。
 天童駅西口から北へ行き、橋を渡ってすぐ右に見える店が目的地「美香蘭」であ る。中国料理の専門店らしく座敷で宴会が出来る本格的な店だ。入ってみるとチャ イナドレスの美人の絵が歓迎してくれた。中に入り厨房の見える机に座る。メニュー には、十数種類のラーメンや焼きそば等と中国料理の定食等が並んでいるが、特製 ラーメン「美香麺」を注文する。これがセイ菜の入っているラーメンだそうだ。
 待つこと数分、特製ラーメンは手作りのような器に乗ってやってきた。スープは 醤油のあっさりとした味で、油が浮いているのにそんなにしつこくない。麺の上に 挽き肉と一緒に乗っているのがやはりセイ菜のようだ。葉の部分を細かく刻んでい るようなので、もう漬物という感じはしない。また、その上にアクセントとしてカ イワレが上品にのっている。麺は細めのシコシコ麺で、表面はツルツルしている。
 スープをすすると、醤油と独特な味がハーモニーを奏でており、その何とも言え ない微妙な味がこのラーメンの魅力だろう。この店のタンメンや普通のラーメンの 味とはまた違う味わいのラーメンである。中国料理の食に対する創造力の素晴らし さを見事に発揮した味と思えた。
 中国で生まれたラーメンもこの地とマッチすると、また新しい味になって生まれ てくる。これからも、こんな風な創造力あふれるあたらしい物を発見したい。
 さあ、どんな楽しいものがあるのか、ぶらっと行ってみよう。


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