『星賀 光のぶらっと食べある記』平成6年”春”
『星賀 光のぶらっと食べある記』 平成6年3月号
「焼き肉君よし」さん
- 誰でも気軽に食べられるものを探しての食べ歩きなので、どうしてもそば屋さん
やラーメン屋さんに寄ることが多かったが、今回は大雪に備えてスタミナを付ける
為にも、バーンと奮発して焼き肉にすることにした。その店は新寒河江街道の陸橋
を西に渡り終える時南側に見える店「焼き肉君よし」さんである。
ある人によると、この土地の人は以前より牛肉を食べる文化があると言う。だか
らいも煮の時も牛肉を使うと言う。しかし、最近の焼き肉と言えばすぐ韓国料理と
思だろうが、ここはちょっと違って純国産焼き肉屋さんという雰囲気の店である。
店内は結構広く、二つの大きな座敷に一杯の人が、肉を食べ大いに楽しんでいる。
席に着いて壁にあるメニューに目をやると、カルビやタン等お馴染みの種類の中
に、ホルモンがあった。最近はモツ鍋等で一躍メジャーになってしまったホルモン
(モツ)であるが、ここのホルモンは他とちょっと違うようだ、「ミノ入り」の文
字。正に焼き肉店では最も高価な品として、メニューの中でもさん然と輝く存在の
ミノが入っていると言うのだ。
早速、ホルモンとカルビ、そして煮込みを頼んだ。間もなく運ばれてきたが、肉
には下味はしていなく、タレに付けて食べる。ホルモンの中には、看板通りミノが
入っている。しかも、「上ミノ」まで入っていた(ラッキー)。あらかじめタレに
漬けてないので、肉そのものを食べるといった感じがする。そして、タレは仄かな
酸味とニンニクの味で、幾らでも食べられそうな気になってくる。また、煮込みは
ボリュームがありかなり大きな器で出てくるが、味はあっさりとしてしつこくない。
満腹になって帰る時に、またビックリしたのはその安さ。
大いに満足して、外に出るとまた雪が降ってきた。どんなに積もっても、スタミ
ナアップで大丈夫、と一人思って空を見上げた。
さて次回の頃は、そろそろ春の声でも聞こえないかなと思いつつ、またぶらっと
食べ歩くのでした。
『星賀 光のぶらっと食べある記』 平成6年4月号
「大久保そば」さん
- 雪の多かった冬がやっと終わり、日差しも段々とやわらかくなってきた。春と言
えば花見、桜の花は長い冬と言うコートを脱がせるに絶妙のタイミングでやってく
る。
さて、天童市で花見と言えばやっぱり舞鶴山であり、登り口はまるで桜の花のト
ンネルのように春への入口のようである。その登り口でも、北の登り口の脇にある
のが、今回訪れた「大久保そば屋」さんである。
外から見ると、昔ながらの民家。戸を開けて中に入ると、懐かしく心を落ちつか
せるインテリアが、心を和ませてくれる。そばの専門店らしく、ラーメンやうどん
の文字がメニューには無い。今回は天ぷらそばを注文することにした。そして一寸
品書きの裏を見ると「コブ巻き」の文字。早速コブ巻きも注文する。まわりを見渡
すと、席の隣にある大きな木をくり抜いた囲炉裏や障子や襖が益々そばを食べる雰
囲気にさせてくれる。桜の季節には、窓から桜の花びらが舞い込む景色が目に浮か
ぶ。等と考えているとそばが運ばれてきた。
そばは太い田舎そばで、いわゆる板に入ってくる。やや白っぽいが確かな歯ごた
えは、これぞ手打ちそばという感じ。また、天ぷらのタレが別になってくるのはと
ても良い。やっぱり、そばのタレに天ぷらを付けて食べると、どうしてもタレが油
っぽくなるのといつも思っていたが、これなら大丈夫。また、一緒に頼んだコブ巻
きはドッかと皿に盛られて出てきた。味はあまり甘くなく、さっぱりとしてコブと
ニシンの味がうまく馴染んでいる。
全体的に、値段も味も手軽に楽しめるそばの店という感じだった。でも、コブ巻
きの分だけベルトの穴が後退した。腹一杯。さあ、これからは春。どこへ行くにも
軽快に行ける。またまた色々ぶらっと行くか。
『星賀 光のぶらっと食べある記』 平成6年5月号
「手もみラーメン大和」さん
- いつの頃からか、テレビや雑誌に全国各地のラーメンの美味しい店が盛んに出る
ようになった。お金さえ出せば、世界の料理等何でも食べられるようになった今で
も、中国で生まれ各地の環境や風土に育てられ庶民の支持を得て日本各地に根づい
たラーメンがある。中には札幌・喜多方・東京・博多等と全国に有名になったラー
メンもある。しかし、かつてラーメンが支那そばと呼ばれ、今から見ればまだまだ
貧しい時代だった頃に、外食と言えばラーメンだったような気がする。そんな懐か
しい、そして本格的な味が天童温泉の中にあった。その店の場所は水車そばさんの
真ん前、ホテル王将の玄関前に位置する「手もみラーメン大和」さんである。
入口には、メニューサンプルのラーメンや丼が並ぶ典型的な食堂の雰囲気を醸し
だしているが、その中に賞状が見える。その賞状は「喜多方ラーメン」の地福島県
会津喜多方に乗り込んでもらってきたものであった。これは、期待できそうだ。中
に入って席につくなり早速「手もみラーメン」を注文した。
出てきたラーメンは至ってシンプル、澄んだスープにやや縮れた麺が見える。スー
プを飲んでみると、その味はしっかりとダシがききあっさりとしていながらコクが
あり、それでいて全然しつこくない。また、麺は「手もみ」とうたっている通りに
縮れてプリプリとした歯ごたえがある。食べた時にそのスープと麺のハーモニーは
最高潮に達する。そして、最後のスープまで飲み干したが、水が欲しくはならなか
った。最近は記憶の中にしか存在していなかったラーメンらしいラーメンに出会っ
たような気がした。
ラーメンのみならず、何でも食べられる現代。それだけに、それぞれの特徴であ
る持ち味をじっくりと分かる前に、ただやみくもに飲み込んでしまっているような
気がする。どんな街角にもその街角の暮らしがあり、それぞれの味がある。
さあ、次もまた味をみつけにぶらっと行ってみるか。
『星賀 光のぶらっと食べある記』 平成6年6月号
「お食事処 都屋」さん
- 去年の1993年は何十年振りの米の不作の年で、緊急輸入としてタイ米やアメ
リカ米も日本の食卓にのぼるようになった。
今年こそはおいしい日本の米がたくさん取れるようにと、一面の田に水が張られ
田植えが終わった。そんな風景を眺めながら、交り江の交差点から蔵増の方へ月山
を真正面に望み道を進んだ。
そして、集落の中を進むと右に見えてくるのが、今回訪れた「都屋」さんである。
駐車場には、農作業の間の腹ごしらえにやってきたトラクターもとまっていた。
中に入ると高い天井に落ちついたBGMが流れている。まるで、地元の人や街道を
通る人の為の騒々しさから抜け出したオアシスのようだ。
早速、メニューに目をやるとラーメン・そばから丼物や定食まで様々な内容だ。
そんなメニューの中から「ラーメンと卵重」のセットを注文する。その他にもラー
メンと煮込みやソバと煮込み等ユニークな取り合わせのセットがあった。
出てきたセットの卵重はふんわりとした卵とじが乗っている。またラーメンは、
民芸風の丼に透き通ったスープにやや縮れた麺が見える。スープはあっさりとして
いるが、浮いている油が麺にからみ、ドンドン食が進む。また、チャーシューはと
ろりと舌でとろけるようだ。さらに卵重を口に頬張り、スープをすする。セットな
らではの味わいが満腹にして、更に満足にしてくれた。最後に一切れ残っていたタ
クアンを口に放り込み、席を立った。
店を出て、また西へと道を進むと目の前に見える月山の雪が所々溶けだしてきた。
その模様に寄って農作業の時期を知ると誰かが言っていたが、これから段々忙しく
なってくるのだろう。
是非今年はおいしい日本の米が沢山取れるようにと思いながら、またぶらっと食
べにいこう。
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